2017年5月2日火曜日

羊と鋼の森

こんにちは。この1週間は、ある事情でたっぷり読書をする時間が持てました。そこで、久しく接していなかった小説を手に取りました。
タイトルは『羊と鋼の森』。書店販売員が選ぶ本屋大賞、昨年の受賞作です。

「羊と鋼の森」って何のことだかわかりますか?

ピアノのことです。
「羊」は弦を叩くハンマーのことで、羊の毛を圧縮したフェルトというもので作られています。
「鋼」は、もちろんその弦です。
「森」は、ピアノの最大の材料である木材を指します。

では、この小説の主人公はピアニストかというと、そうではなく調律師です。あまり知られていない調律という立場から、ピアノという楽器の魅力と奥深さを描いています。

明るく澄んで、それでいて小気味よいテンポ感のある文体に引き込まれてました。難解なセンテンスや語句がまったく見受けられず、読み進めやすい小説です。
と、書いていてもイメージできないでしょうから、一節を抜粋します。

 なだらかな山が見えてくる。(中略)山だと思っていたものに、いろいろなものが含まれていたのだと突然知らされた。土があり、木があり、水が流れ、草が生え、動物がいて、嵐が吹いて。
 ぼやけていた眺めの一点に、ぴっと焦点が合う。山に生えている一本の木、その木を覆う緑の葉、それがさわさわと揺れるようすまで見えた気がした。
 今もそうだ。最初はただの音だったのに、調律し直した途端に、艶が出る。鮮やかに伸びる。ぽつん、ぽつん、と単発だった音が、走って、からまって、音色になる。ピアノって、こんな音を出すんだったっけ。葉っぱから木へ、木から森へ、山へ。今にも音色になって、音楽になっていく。その様子が目に見えるようだった。

もう少しだけ、抜粋を。

指一本で鍵盤を叩いた。それは基準音となるラのはずだったのだけど、音の伸びる方向にすうっと景色が開けるのが見えた。銀色に澄んだ森に、道が伸びていくような音。そのずっと奥で、若いエゾシカが跳ねるのが見えた気がした。


音を言葉で写しだす表現方法もさまざまですが、この本ではタイトルにもなっている「森」をキーワードにしています。
だんだん蒸し暑くなってきた季節に、一服の清涼感に触れることができました。読後感は温かさに満たされたものでした。あと1~2回は読み返したい本です。


この本を手に取ったのは理由があります。
私はかつて5年弱、楽器店に勤めていました。そのとき調律師ともよく話をしましたが、若気の至りというのか、「調律の何がおもしろいの?」と単刀直入に聞いたことがありました。
その返答はよく覚えていないのですが、おそらくこの本に書かれていたようなことを言いたかったのでしょう。今ごろ納得しました。


話が少し外れますが、調律師が書いた本があります。


この2冊の著者は、私がその楽器店に勤めていたときに大変お世話になった上司です。
宣伝半分ですが、じっさいに読むと興味深い話が満載です。
ピアノを弾く方、ピアノ演奏が好きな方はぜひ。


今回は、本題とは関係のない本の話で終わってしまいました。が、栄養学や生理学の書籍ばかりではなく、心が澄みわたるような小説もときどき必要だと、切実に感じました。

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